「創作者」には二種類の人がいます。一つは「自分の内側に在るものを放出することで満足するタイプ」。もう一つは「自分の内側に在るものと、外側に在るもの(≒需要)の折衷案を創り出すタイプ」。
小説を書く人
こと「小説家(候補生)」というのは因果なもので、どちらも起こり得ますし、どちらかであるかが非常に分かり易い生き物です。「好きなものを書く」が前者で、「評価されるものを書く(書きたい)」が後者です。この二つ、基本スタンスとしては相容れないのですが、困ったことに「好きなものを書いて評価されたい」という人が少なくないというのも事実です。
好きなもの≒需要?
その「好きなもの」が、外側に在るもの(≒需要)と合致していれば幸運です。非常にラッキーです。好きなものを書くだけで評価されるなんて、作家冥利に尽きると言えばそうなるでしょう、ですが、違うのです。このサイトでも多数の分析記事を出しましたが、あなたの既存作品、その結果と一致していましたか? 違っている人が大半だと思います。つまり、あなたの書いているものは、外側に在るもの(≒需要)と一致していない。
もちろん、それが悪いとは言いません。あなたの内側に在るもの(=好きなもの)が次のムーヴメントを起こすかもしれないので。ですが、それを「評価されたい」と思うのは、あまりにも時期尚早というか傲慢不遜です。斯く言う私もまだまだ中級者、されど「セイレネス・ロンド(=書きたいもの)」を評価されたいと思うわけです。現在★140オーバー、まぁ、悪くはないです。こちらの記事で換算すると、「小説家になろう」では4,000~5,000pt相当になるわけですしね。まぁ、悪くはない。
アーティスト
自分の作品に拘泥し、そこから離れられないのが「アーティスト」。無論、アーティストとはかくあるべきなので、それを責めることはできません。逆に、アーティストが大衆の求めるものに迎合してしまったら、それはもうアーティストではないかなと。クリエイターの中でも自分寄りの出力をする人たちをアーティストと呼ぶわけです。この彼らの「素」をありのままに受け止めて評価してくれる人は、非常に稀です。あなたが天才かつ幸運の持ち主でなければ、「アーティスト」として成功することはほぼ不可能です。つまり「書きたいものを書いてそれが評価され続ける」なんて、都合の良い夢でしかないでしょう。
デザイナー
その一方で、「クリエイター」にはもう一種類あります。それが「デザイナー」です。「小説家がデザイナーなわけがないだろう」と思ってしまうかもしれませんが、売れてる小説というのは、「あなたのためにデザインされた文字列」で作られています。外に在るもの(≒需要)に応えるというのは、つまり、「デザイン」なんですね。なので「売れることを前提にしてモノを作る人」=「デザイナー」なわけです。だから我々小説家になりたい勢は、「クリエイター」を名乗ると同時に、それをもっと掘り下げて「デザイナー」を目指さなければならないと思うわけです。
design という単語
ところで「デザイン」とは何でしょうか。英語で書くと「design」。これ、「de+signo」というラテン語なんですね。「強く(強調)+印をつける」で design です。ついでに言うと、野球で「DH」、つまり designated hitter ですが、これの意味は「指名打者」。この「designate」もまた design と同じ語源です。つまり「指名する」という意味になるのです。つまり designer というのは、「誰かのために指名する・印をつける人」という意味になります。それが転じて「誰かが使うものを作る人」のような意味になったわけです。
ごく一部の天才を除く小説家たちもまた designer というわけです。
小説家のすること
大前提として「アート」は売れない
「誰か(=読者)のためにワード、センテンスを積み重ねてコンテクストを作り、ストーリーを形成。そして提供する」人ということですね。読者の方を向いて、彼ら一人一人に合ったデザインができなければ、せっかく苦労して書いた十万文字二十万文字も、結局は誰もが素通りする「アート」になってしまうのです。読者にしてみれば作者の苦労なんて関係ないですからね。あくまで「自分にフィットするかどうか(=自分向けにデザインされているかどうか)」が唯一無二の判断基準なので。生い立ちや苦労話のバックボーンを付けて「アート」を売れるのは芸能人くらいです。
「デザイン」するためには?
では「デザインする方向性」はどう決めれば良いのでしょうか。一番手っ取り早いのが「現状分析」を事細かに実施することです。本サイトでも「データで比較」「データで分析」などでタグ(キーワード)やジャンルの観点から現状を分析してきておりますが、こういったデータをフル活用して、「今ならどんなデザインがウケるか」を考えることです。そのための資料はうちのサイトでも他のサイトにも、あちこちに転がっています。情報収集はデザインの基本です。これを怠っていては一番最初の「コンセプトデザイン」すらままなりません。なので「デザインしようと思ったらリサーチ」が大事なのです。
リサーチ
もちろん、リサーチに最良なのは、「上位作品を全部読み漁ること」ですが、そこまで時間をかけられる人はそうそういないと思います。ですが、総合トップ10くらいの作品は冒頭部分だけでもチェックするのをおすすめしたいですね。思わず読まされてしまう魅力が必ずあります。その後その魅力が続くかどうかは普通は未知数ですが、上位作品は総じてきちんと続いています。上位作品にはちゃんと理由があるのです。
それらを「デザイン」の観点から分析するととても興味深い結果が出ます。ここで各作品についての言及は避けますが、高評価作品は「冒頭からキテます」。たいてい。そうじゃないのに高評価である作品も見られますが、「なぜか読まされます」。これが「文章力」という奴の力か……。
好きなものを書く、そして……!
とにかくも「自分こそが天才である」という人ではない場合は、以下二択からスタンスを選ぶ必要があります
- 好きなものを書き続ける。評価なんて要らない。
- 好きなものは書くが、評価のために読者の方を見て作品をデザインする。
この辺のスタンスがハッキリしていれば、評価されなくて苦しむ事から解放されます。前者であるならそもそも気にしないわけでして。後者であるならば「どう最適化するか」を考えるのでリソースを全部持っていかれます。嘆いている場合ではないので。或いは「好きなものとかどうでもいいから、評価されるものを書く」というスタンスもありでしょう——モチベーションが続くかどうかは知りませんが。
多くの悩める小説家(志望者)を見ていると、「デザイナー」と「アーティスト」の間で鬩ぎ合っているように思えるのですね。この際です、自分はどちらなのか、どちらでありたいのか、自分のスタンスをはっきりさせましょう。
雑誌読み放題!月額380円で250誌以上が読み放題まとめ:健全な精神状態をキープするために
「評価されない、絶望した」というのは最も不毛な精神状態です。「評価されない、じゃぁ、どうしようか」となっていれば、きっといつか評価されるでしょう。少なくとも前者の人よりは、評価されるときは近いはずです。
しかしながら「書きたいものを書く」というのはとても健康的な精神状態です。もし、「書きたいものを書いて、それで評価されたい」と願うのであれば、我が道を行くのではなく、リサーチを前提にして修正に修正を重ねていくのが良いと思います。困ったら、あるいは詰まったら、まずは周囲を見回して、そしてインプットと分析に集中することです。そうすることで、あなたの作品には必ずいい影響が出てくるはずです。
作品を「より評価してもらえる書き方」に答えなんてありません。答えがあるなら、さらにより良い答えを求めて、クリエイターたちはさまよっているはずです。終わらない旅なんですね、「より良いもの」という抽象的な概念を求める旅というのは。なんと因果な活動でしょうか……。
まぁ、手始めに「セイレネス・ロンド」でもどうですか?(ダイレクトマーケティング)
異世界の彼方へ君を探しに (イッシキ文庫)
コメント