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「大長編」作品を書く

エッセイ

長編作品が10万文字前後だとすれば、大長編作品は100万文字(あるいはそれ以上)級ということになりましょうか。京極夏彦氏の作品なんかは一冊でも大長編って感じがしますよね。まぁ、その辺の定義は曖昧なのかも。でも、そのままでは話がしにくいので、最初の通り100万文字以上を大長編とみなしましょう。ざっくり文庫本10冊以上ですからね。長編の枠には収まらないでしょう。

私の手持ちの作品で最も長いのは「セイレネス・ロンド」ヴェーラ編三部作です。100万文字ちょい。次に長いのが「シスターシスター♡双方向性三角関係」の合計88万文字。他にも「セレスの大地」シリーズや、「メビウスと蛇」シリーズもあるのですが、これらはまだ大長編への成長過程途上にあるため割愛。

また、下記は基本的に「カクヨム」に準じて書いていますが(「★」とか)、他のサイトでやるにしても基本的には同じです。適宜読み替えてください。

大長編を書くのに必要なもの

私は上記以外にもながーい作品を幾つも書いてきました。そこで、「それらを書くのに何が必要だったのか」を振り返り、備忘録を兼ねて提示してみたいと思います。売れたかウケたかはともかくとして、これらを持つことができれば「大長編を書く」という目的は達せられます。

何部で構成するかを決める

自分でまとまりがつけられる長さを割り出します。これは「長編」を何本か書けば、見当がつくようになるはずです。初めての大長編の場合は、10万文字単位で区切っていくといいでしょう。

1部あたりの文字数をザックリ決めたら、その区切り一つ一つに「起承転結」または「序破急」を用意します。ここの段階では入れ子構造にはせず「〇が×したら△になるけど☆がおきて◇になる。その結果として■という結末にたどり着く」くらいのざっくりした構成をつくります。それを複数並べて、次に挙げる「ラストシーン」に辿り着くようにします。

そのラストシーンに「自然に至る」までに、いったい何部必要なのか……が見えてくるはずです。もちろん敢えて急展開を作るのもアリですが、各部ごとに「起承転結」または「序破急」がしっかり作られていれば、読者を飽きさせないようにすることが可能なはずです。でも、ここではあまり難しく考えず、前述のように「〇が×したら……」程度の所までを用意するにとどめます。肉付けはこの後のプロセスで少しずつしていきます。

ラストシーン

これは賛否両論あるかもしれませんが、「ラストシーン」を最初に決めると話が作り易いです。まずは全部通してのラストシーンを決めるのです。「ここまで書いたら物語は終わり」という所を作り、これはいったん物語を作り始めたら、決して動かしてはなりません。背骨がふにゃふにゃになりますよ。また、そこで「終わり」を事前に決めておくことで、無駄な冗長性、終われない病、そういったものの発生を事前に防止することができます。私はラストシーンから決めるので、今までこのような「終われない」状況に陥ったことはありません。これは短編だろうが長編だろうが大長編だろうが同じです。

全体のラストシーンを決めたら、今度は各部のラストシーンを決めます。それはすでに「起承転結」または「序破急」で決められているはずなので、まずは「結」あるいは「急の最後」をがっちり決めます。走り書きでも何でもいいので、とにかく保存できる形で言語化しておきます。

「このラストシーンをこそ書きたいのだ」と作者が自分で思えないような作品を、まして第三者(読者さん)が読みたがるでしょうか。ですから、作者はラストシーンのためにあらゆる事情(邪念)をかなぐり捨てて、疾走疾駆し続けなければなりません。

つまりですが、「大長編」とはいっても、各部はそれぞれ「長編」と同じ書き方をするということです。ただし、「作品全体のラストシーン」が決まっているので、総てがそこに集束していくように気を付けなければなりません。

この過程には、伏線がどうとかいろいろあると思いますが、絶対に必要な巨大な伏線以外は置かないようにします。ていうか、この段階では伏線なんて置かずにシンプルに構造を作っていくのが良いです。ファンタジーやSF作品に於いては(ミステリーやホラー以外とも言える?)、伏線の多くは、作者の自己満足です。ことWeb小説に於いては、(読者の大半は)そんなに前の伏線なんて覚えていてはくれません。余計な混乱を招くだけ、あるいは冗長ととられるだけなので、思い切って切り捨てましょう。捨てる勇気を持ちましょう。

ところで、この時点で最初のシーンが最初に出てきているならラッキーです。最初と最後が決まってくるわけですから、「転」あるいは「破」の部分を作り込めば良いわけですね。しかし仮にそうであるにしても、「導入部分」は作品の肝です。安易な書き始めはやめましょう。何度でも練ります。練ってください。掲載後の修正、書き直しも施策に入れておく必要があります。

テーマ

「ラストシーン」を決めたら、次に「テーマ」を決めます。逆でも良いのですが、私の場合は「場面」があって「テーマ」が決まる……ので、この順番にしています。

「テーマ」のない物語ほど脆い構造体はありません。テーマ、つまり「その作品は何なのか」——ということです。作品全体の「テーマ」を決め、各部の「テーマ」を決める。こちらは独立していても構いません。全体のテーマと、各部のテーマが全然違っていても全く問題はありませんし、その方がむしろ、読者的立場においては新鮮味があって良いかもしれません。

たとえば「セイレネス・ロンド」で言いますと、以下のようになります。私は基本的に「起承転結」ではなくて、「序破急」なので、それゆえに3部構成となっています。また、次の項目にある「覚悟」のために、各部を別作品として掲載しています。

  • ヴェーラ編三部作全体のテーマ:戦争の否定・大衆迎合の恐ろしさ
  • 第一部のテーマ:序破急の「序」/カティの成長・恋と別離
  • 第二部のテーマ:序破急の「破」/ヴェーラの覚醒・敵味方の悲恋・男女の愛
  • 第三部のテーマ:序破急の「急」/歌姫たちの決意・人類的な愛慕と憎悪

あまり裏事情は明かしたくないのでかなりザックリですが、こんな感じです。「セイレネス・ロンド」は男女の恋、男女の愛、そして人類的な愛へと発展していきます。それは究極的には「戦争の否定」を導き出すわけですが、その方法論はやはり戦争であって(戦争でしかなくて)、そこに大衆(衆愚)の恐ろしさがあるという。本作については読んでもらうのが一番早いのですが、雰囲気だけならこの公式サイトを見てもらえれば。

テーマというのは、作品における「生命の息吹」のようなものです。テーマがない作品は、ただの文章の塊であって、物語とは言わない。私はそう思っています。

孤独な戦いへの覚悟

準備はできた。道具は揃った。しかし、この「覚悟」がなければ大長編は書けません。孤独である覚悟です。公募のための原稿を書いたことのある人なら「そういうのは慣れてる」と言うかもしれませんが、Web小説に於ける孤独は、実はそれより重い。

たとえば、ノロに感染して自宅で寝込んでいる。寂しいですよね。つらいですよね。でも自宅なのでトイレに籠ろうが何しようが自由。ものすごくつらくても寝込んでいられるし、電話をすることだってできる。これが公募。

満員電車の中で突然、謎の腹痛と吐き気が同時に襲ってきた。しかし目的地はまだまだ先だし、行くにも帰るにも中途半端。周囲の人の何人かは毎日同じ電車で顔を合わせるが、素性は誰も知らない。孤独ではないのに孤独。電話もできない。LINEもTweetもできない。ひたすら吐き気と腹痛を孤独に我慢。これがWebで大長編を書く時の状況。

両方体験している私だから言えますが、同じ「孤独」でも性質は全然違うのです。

公募は孤独に死ぬことがあります。むしろそのリスクは高いです。しかしその一方でWebは死なないのかというと確かに死にはしませんが、Web小説はエタることが少なくありません。Webの方は我慢しきれずそっと電車を降りて行ってしまうのですね。(ただし、満員電車なので、降りるのにも相当な覚悟とエネルギーを使います) いずれにせよ、作品は闇に葬られます。もったいない。

ともかくも、Web小説で大長編をやらかす時には、相当な覚悟が必要です。運よく読まれて反応が得られればラッキーです。本当にツイています。ですが、実際の所、100万文字以上の作品で★が100以上ある作品は全体の1/3程度です。推定60%以上の作品については★が1~2桁ということになります。ぶっちゃけ、文字数的には割にあいません。

私の「セイレネス・ロンド」も、100万文字で一作品にしていたら、★は二桁だったかもしれません。また、完結まで見届けてから★を投じる人は少なくありませんから、100万文字掲載が終わるまでは基本的に無反応です。「♥」があれば御の字。ですから、基本的にはものすごく孤独です。一人か二人のためだけに、歯を食いしばって書き続ける日が続くんじゃないかと思います。いや、リアルタイムでは一人でもいればラッキーか……。

そんな世界に行こうというわけですから、「覚悟」が必要なのです。

それじゃ大長編なんて書けない

ここまで脅すような文言が続いていますが、書けないというなら書かなければいいのです。強制されて書くものではないですからね。

そもそもあなたは「誰のために」大長編を書こうと思っているのでしょうか。こっちのページでもお伝えしていますが、つまり「あなた自身のため」ですよね。であるなら「あなた自身」が「これは大長編でなければ駄目だ」と思っていないってことです。「あなた自身」が「この物語を語りつくしたい(そのためには長編レベルじゃたりない!)」と思っていないってことは、その物語は「大長編」になるべきものじゃないということです。

大長編といっても、巨大な一つのテーマ(背骨バックボーン)の入った長編(の集まり)です。覚悟さえあれば、誰にでも書けます。そしてなにより、一度「大長編」を書き上げると、「基本的に無敵」になります。どんな作品でも書けるという謎の自信がつきます。

まとめ

というわけで、「大長編」作品を創るうえで必要なものについて解説してみました。

やるなら「覚悟」を決め、しっかり「戦略」「戦術」を練る。それを適切にできるようになるには、まずは10万文字級を10作くらいは書いた方が良い気がします。どうせ長期戦になるのです。しっかり時間をかけて助走しましょう!

少なくとも私はこのやり方で書いてきましたし、今後もマイナーチェンジはすると思いますが、基本的にはこの路線でやっていくでしょう。

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さて、今回の記事は参考になりましたでしょうか。

それでは良き執筆ライフを!

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